おとぼけなのか、ボケなのか

ちょうど2年程前、母が胆管炎で入院した。内視鏡手術を2度行っても治癒せず、開腹手術する事になるも、院内でコロナの濃厚接触者になり、隔離されたり転院が必要になったりと延期に次ぐ延期で3ヶ月が経った頃。

やっと許可が下りて、10分だけの面会。ストップウォッチの音が鳴る。すると、主治医が「ちょっとお話いいですか」と声を掛けてきた。こちらからも聞きたい事が山ほどあったけど、ちょっと身構えませんか、あちらから来られると。

  主治医「お母様とお話されてどうでしたか?」

  私&妹「ボーッとしてる感じでしたけど、思ったより元気そうで良かったです」

  主治医「会話は普通にできましたか?」

  私&妹「はい。とぼけた事を言ってましたけど、おとぼけキャラなので」

  主治医「おとぼけ!そうですかそうですか、なら良かったです!!」

先生!母がおとぼけで何が良かったって言うんですか!?

聞くと「話が全然噛み合わなかったり、反応が無かったり薄かったりして…元々そんな感じなら大丈夫かな。入院が長引くとボケちゃう方もいらっしゃるんで心配してたんです」と。うーん。それは判断が難しい。話が噛み合わないとは言ってないぞ?

それから二週間後に無事退院した母は、その半年後、今度は脳内出血を起こして生死を彷徨う。脳のド真ん中で出血が広がっており、回復したとしてもどこに後遺症が出るか分からない状況だった。先生のゴッドハンドによる数回のカテーテル手術の後、驚異の生命力で無事生還。ただ、体は思うように動かせず、2ヶ月程リハビリに励んだものの要介護5と認定。更に認知症と診断された。生活の全てに介助が必要だが、幸い寝たきりの状態ではない。

家に帰りたいという母の希望を叶える為、通所介護と介護用品のレンタルを利用し、とりあえず父が自宅介護する事になった。揉めに揉めて揉めまくったけれども。

そして、リハビリ病棟から退院した当日、父がタクシー代を支払っている時に更なる事件が起こる。早く家に入りたいあまり、おぼつかない足で急いだ母は自宅前でコケた。今度は腰を骨折し、トンボ返りで整形外科に入院したのだ。絶句。父は自分を責めたけど、父のせいではない。遠方だからと当日の付き添いを怠った私と妹は大きな後悔をした。

 

そんなこんなで老々介護がスタートした我が実家。母の運動能力は徐々に低下しているが、父がスパルタなので何とか体を動かしている。問題は認知症。どうやら記憶が長持ちしないらしく、最近の事は何を聞いても笑いながら「わかんないねぇ」と言う。胆管炎で入院した病院でそうであったように、元々面倒な事や興味のない事を笑って聞き流す節があるので、とぼけているのかボケているのかわからない。

もう話す事さえ出来なくなるかもしれないと泣きながら飛行機に乗った時の事を考えれば、会話出来るだけでも奇跡的な回復なのだけれど。

          

                このイラスト、心なしか母に似ている。

少し前に実家に帰った時、ちょうどケアマネジャーが家に来た。遠方に住んでいる上に、父の体調も万全ではなく心配だと話したのを覚えていてくれたのか、近々ボタン式の緊急通報システムを設置してもらえる事になった。ただ、妹曰く、母は昔からボタンを押したがりやなんですって。絶対ウズウズして押しちゃうよって。なんかわかる。笑

母は新しもの好きなので、興味を持つ事は間違いない。手の届かない所に設置しては意味がない。新たな心配が生まれた。